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エリュシオンでささやいて
第13章 Moving Voice
あたしははっとする。
棗くんが足を引っかけて須王に抱き留めさせたのは、もしかして須王に匂いを確かめさせるため!?
「お前に香りをかけずして、あの女が目的が達成出来るわけねぇだろ」
そうだ。
もしもこのお姉さんが本物であったのなら、お姉さんしかいない家に、なぜ記憶操作ができる柘榴の香りを振りかけたというのか。
「浄化を……」
――母ちゃん、いつもこの部屋になにかかけているよね、スプレーみたいの。俺の顔に何度かかけたことあるだろ。やめろっていってもしつこく顔に。
――さっちゃんが来るたびにシュッシュしてくれるんですよ。
さっちゃんが、お姉さんにシュッシュしなかった理由はなにか。
棗くんの銃口がぐいとお姉さんのコメカミに宛てられる。
そして女王様だとは思えないほど、低い声が発せられた。
「音楽がわからないのなら組織の者ではないわね? だとしたら、〝天の奏音〟かしら」
「組織?」
裕貴くんがきょとんとする。
それを無視して、棗くんは続けた。
「あなたが自分でこの匂いを撒いたんでしょう?」
さっちゃんではなく、このお姉さんが!?
「ちが……」
否定するお姉さんを擁護するようにあたしは言った。
「でも顔や声が。裕貴くんがお姉さんだと認識しているのに、なぜ? もしかして遥くんのように最初からそう思い込まされていたってこと?」
「待てよ、柚。それはないよ、だって姉ちゃんだぞ、俺の。なんで弟の俺や、姉ちゃんを産んだ母ちゃんが騙されるんだよ!」
「写真にはいただろう、姉貴の顔」
須王が嘲るように笑いながら、動く彼女をぐいっと締め付ける。
「だからこれは、裕貴の姉貴の顔を真似した偽者だ。声帯模写が特技なんだろう」
「はああああ!?」
……うん。裕貴くん、その気持ちわかるよ。