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エリュシオンでささやいて
第13章 Moving Voice
「それと。音楽家に音楽を聴かせるデメリットを考えるべきだったな。迷惑車から流れた騒音では、仮に玄関のドアを閉めた場合でも、あんな小さい音にはならねぇ」
確かに、耳を澄まさないといけないほどの小さな音量だった。
「となれば、お前の言い分はすべて偽りとなる。あの女も、音楽を流した迷惑車もいなかった」
と、すれば――。
「さあ、言え。誰の命令で、裕貴の姉貴になりすました。音楽を流した変声機の奴は誰だ。今、どこにいる!?」
「わ、私は裕貴の本当の姉よ! 裕貴、あんたならわかるでしょう!?」
涙を流しながら、彼女は叫ぶ。
……不思議と、追い詰められているのに彼女の顔色は変わらず、汗も掻いている様子はない。
ただ声だけが、悲痛だ。
そう、顔と声がちぐはぐなのだ。
まるで仮面を被っているかのように。
「姉貴。姉貴が彼氏といつも別れる理由を言ってみてよ」
裕貴くんがそれに気づいたかわからない。
しかし裕貴くんしかしらない情報で、確認しようとする。
目の前の姉の顔をしたのは、本物か否か。
「今まで遡ること五人、同じ理由でなんで別れている?」
裕貴くんはいつも恋愛相談に乗っていたと言っていた。
「そ、それは……。そんなこと、あんたには関係ない……」
……ああもう、これはアウトだ。
「知っているだろうさ! 毎回毎回うるさいほど俺に意見を求めて!」
裕貴くんは爆ぜたように言う。
「答えは、彼氏が早瀬須王以上のイケメンではなかったから、だ!」
単純明快な答えに、あたしの顔が引き攣った瞬間、膠着だった事態は動く。
羽交い締めをしている須王の脇を狙うようにして、彼女の両肘がぐっと下がった瞬間、彼女の片足が外側から回り込むようにして須王の片足に巻き付くと同時に、体を半回転して須王の羽交い締めから逃れようとしたのだ。
それは素人の動きではなかった。
しかし須王は片腕を伸ばして彼女の首に巻き付けて拘束すると、棗くんが銃と見せかけて、彼女のみぞおちに容赦なく膝を入れ、彼女は二つ折りになって崩れる
鮮やかな連携にあたし達は目を瞠ることしか出来なくて。