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エリュシオンでささやいて
第13章 Moving Voice
須王がすぐに駆けて、その靴跡を残した人物を突き止めようとしたけれど、黒い車に乗り込んで逃走してしまったようだ。
戻ってきた彼の足は、案の定泥だらけ。
これでは犯人の一味になってしまうと靴下を脱がせ、用意した濡れタオルで王様のおみ足を拭ってあげれば、王様は顔から硬質の警戒心が少し解けたような……ご満悦な笑みを浮かべて、あたしの頭をよしよししてくれた。
あたしはワンコの気分で、尻尾を振りたい心地。
「自分でしなさいよ。上原サンにそんなことまでさせて。あんた彼女を、ペットとして調教でもしているの?」
しまった、傍観者がいるんだったと、あたしは慌てて、空想の尻尾を引っ込ませて、二足歩行できる人間へと成長。
「いいんだよ。これも愛情表現。お前らが見ていないところで、色々俺だって濃厚なご奉仕しているんだから。な、柚?」
「濃厚な、ご奉仕……」
あたしより聞いている裕貴くんの方が赤くなり、瀕死状態だ。
阿吽の呼吸の王様と女王様に助けられた形で、なんとか張り詰めていた空気も緩和して、ド素人のあたしと裕貴くんはようやく呼吸を出来るようになったと思う。
こういうところも須王と棗くんは凄い。
何度もこうした緊迫した場面に立ち会い、対処方法を知っているから、なんだろうけれど。
棗くんが須王にぽいとなにかを寄越せば、ボールペンだ。
「高性能の盗聴器発見機よ。須王は上原サンと一階を。私は裕貴と二階を探してくるわ」
棗くんの提案通りふた組に分れて、宮田家の住人や盗聴器や爆弾などという物騒なものを探したが、拍子抜けしてしまうほど異常がなかった。
棗くん達と合流しても、二階も異常はなかったらしい。