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エリュシオンでささやいて
第13章 Moving Voice
「でもさ、須王さん。早苗ちゃんが使われたということは、病院をなにか訴えているようには思えない? なんで早苗ちゃんなんだろう。早苗ちゃんスパイみたいにして、ずっと病院にいたということ?」
裕貴くんの疑問に、須王は首を捻りながら言う。
「いや。あの看護師がスパイにしろ刺客にしろ、全く殺意も動揺もなかった。病院でもこの家でも。れっきとした殺気があったのは、あの犬くらいだ」
確かに、早苗ちゃんと病院で会った時は、なにかに操られているとは思ったけれど、なにか作為的な様子はなかった。
なにより須王と棗くんのふたりが、早苗ちゃんに潜む殺意や一瞬の心の揺れに気づけないはずはないだろう。
「警告、かしら」
「その線は強いだろう。結局今回のことは、俺達が遥を訪ねたから早苗を、裕貴の家族に会ったからここに誘導。そして柚が名刺を渡したあの女と接触したから柚に電話がかかってきたと思う」
「だったら……あたし達は見張られているといいたかったってこと? それにしては手が込みすぎているんじゃ……」
「確かに手が込みすぎているし、ただの素人ではないって手の内を明かし、なおかつあの音楽。この件で時間を割いたことは、絶対意味はある」
すると裕貴くんが頭を抱える。
「〝天の奏音〟ってなんちゅう宗教なんだよ……」
ふたりは裕貴くんに組織のことは語らず、辛そうな表情をしている。
こんなに可愛がっている裕貴くんにも語れないその事情を、あたしは須王から話して貰っている。
それが嬉しいと思うと同時に、裕貴くんにも言えないほど大きなものをふたりが抱えてきたことに心が痛む。
それがいまだ続いているのなら、尚更に。