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エリュシオンでささやいて
第3章 Dear Voice
 

「ええ、おかげさまで、とてもとても早く帰れました」

 スタンドをたてて、その上にシンセを置きながら、キッと睨み付ける。

「それはよかった。ご苦労様」

 意味ありげに笑いを見せる早瀬に、いらっとしてケースごとベースと思われるものを押しつけた。

 早瀬が笑いながらケースのチャックを開けると、そこから鮮やかなオレンジと茶色のグラデーションが目を惹くエレキベースが出てくる。

「あるものでと言ったが……六弦のフェンダーか」

 フェンダーとはベースの有名メーカーだ。

 弦の張りを調節してから、電源を入れたアンプから伸ばしたケーブルと、ベースに接続したケーブルの双方を長方形のエフェクターに繋いで、つまみを回していく。

 それで足でリズムを取りながら、ギターより太い弦を指で弾いていく。

 アンプから流れるのは小さな音量であったけれど、凄まじい指の動きに、リズムも音の強弱もなにひとつ乱れることなく。それだけでベースの腕がわかったのは現役ギタリスト。

「あんた、ベーシストだったの!?」

「一般人だ。お前もアンプに繋げ。ここは防音じゃねぇから、音量上げるなよ。上原、シンセセッティングしてくれ」

 突然言われて、ケースから長いシンセを出せば、背面に書かれたメーカーと機種を見て早瀬がぼやく。

「ローランドのXP-80か、古いな。でも76鍵なら仕方ねぇか」

 作曲家であることは知っていたけれどね、楽器通だってあたし初めて知ったけれど。なに、どれくらい楽器の勉強してたの、早瀬。

 あなた専門クリエイティブなお仕事でしょう? 
 なんで楽器を弾く技術や知識まであるの?

 まあ、早瀬だからねぇなどと結論が出ない答えを出して、電源コードを繋ぐあたしに早瀬が言う。

「電源入れて、モニターアンプをケーブルで繋いでいてくれ。ペダルもシンセの背中見ればわかると思うから繋いで」

「わかりました」

 あたし機械詳しくないし、さらにシンセをいじるのも今が初めてで。
 それをわかっているくせに、軽く言う。
 出来ないと言うのは悔しいから、知っているふりをして接続する。
 
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