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エリュシオンでささやいて
第13章 Moving Voice
「床に残された靴の大きさは、28.5というところね。スニーカーを履いていたと考えられる。幅があったことから、細身ではないわね。身長は180前後というところかしら」
「そんな大きな男のひとが入って来て、女性を持って出て行く姿を誰も見ていないなんて……」
須王と棗くんはドーベルマンとの死闘中、気に掛けられなくても仕方がないとはいえ、なんであたし、それくらい目撃していなかったかなあ!
「……なあ、柚。三芳から連絡来ているか?」
突然の硬質な須王の声に、あたしの心臓は不穏に跳ね上がる。
慌てて取り出したスマホ。
今まで見ていなかった画面に、女帝からLINEの通知があった。
そこにあったのは、今この状況で見たくない文字だった。
あたしは一気に青ざめる。
「柚、なんて書いてあったんだよ」
それはただ一言。
「〝助けて〟……って」
棗くんは舌打ちし、立ち上がった須王は低い声で言った。
「これは陽動だったんだ! 『殺生』は裕貴の家族に対してじゃねぇ。ターゲットは、別行動をした三芳達だ。だからここに全員を集め、ここで時間を潰させたんだ」
そんな、女帝が。小林さんが。
十悪になんて関わっていない、善良なひと達じゃない。
あたしの頭の中で、変声機をつけた変態の笑い声が響いた。