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エリュシオンでささやいて
第13章 Moving Voice
  
 スタジオから離れているが、小林さんは奥さんに会いに向かったまま、消息を消したのだろうという結論になり、奥さんがなにかを見たり聞いていないか、奥様のご贔屓の須王が(嫌々、渋々)お店に電話をかけたのだが、別の店員が出て、今は休憩中とのこと。戻り次第連絡をするという手筈になっていたのだが、連絡がこなかった。

――これは、手がかりがない以上、行くしかねぇな。

――裕貴の家族の無事の確認も大切だから、ここは別れましょう。須王と上原サンと車で向かって。私は後で裕貴と合流するようにするわ。家族を待つまでの間、車が今までどこからどこに向かったのか、データ検証してみる。

 慌てて須王と車に乗り込んだものの、静かなるふたりの空間で、どうしても最悪のことを思い浮かべてしまい、女帝達のSOSに気づかなかった罪悪感に、あたしは胸が押し潰されそうになっていたのだった。

「ああ、俺。お前の泣き顔に弱いんだよ」

 困ったような声音を出す須王。

「……あたし、散々泣かされてきたけど?」

「セックスでもな?」

「ちょっ!」

 にやりと笑う須王を見て、この瞬間涙が引いたあたしは、須王流の慰め方だったことを知る。

「泣くなら、俺のことだけにしろ」

「……っ」

「他は許してやんねぇぞ。俺が横にいるのに、俺以外に心奪われるなんて」

 それは冗談にも思えない王様口調だけれど、実にふて腐れた言い方で。

 今までこのひとに、どれくらい泣かされ(啼かされ)ただろう。
 あたしもどれほど、恨み言を向けただろう。

 そうか、この件は須王も罪悪感を感じているのか。
 あたしの心に、共鳴して辛いのか。

 ならばあたしは、涙を拭って前を向かないといけない。
 過去に囚われるのではなく、未来に向けて出来ることを今したい。

 ……そう思えるようになったのは、きっと須王のおかげだ。
 
「弱気になってごめん。女帝と小林さんが生きて戻ってくるように、あたし最善を尽くす」

 須王は返事の代わりに、あたしの頭をぽんぽんとして、微笑んだ。 
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