この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
エリュシオンでささやいて
第13章 Moving Voice
スタジオから離れているが、小林さんは奥さんに会いに向かったまま、消息を消したのだろうという結論になり、奥さんがなにかを見たり聞いていないか、奥様のご贔屓の須王が(嫌々、渋々)お店に電話をかけたのだが、別の店員が出て、今は休憩中とのこと。戻り次第連絡をするという手筈になっていたのだが、連絡がこなかった。
――これは、手がかりがない以上、行くしかねぇな。
――裕貴の家族の無事の確認も大切だから、ここは別れましょう。須王と上原サンと車で向かって。私は後で裕貴と合流するようにするわ。家族を待つまでの間、車が今までどこからどこに向かったのか、データ検証してみる。
慌てて須王と車に乗り込んだものの、静かなるふたりの空間で、どうしても最悪のことを思い浮かべてしまい、女帝達のSOSに気づかなかった罪悪感に、あたしは胸が押し潰されそうになっていたのだった。
「ああ、俺。お前の泣き顔に弱いんだよ」
困ったような声音を出す須王。
「……あたし、散々泣かされてきたけど?」
「セックスでもな?」
「ちょっ!」
にやりと笑う須王を見て、この瞬間涙が引いたあたしは、須王流の慰め方だったことを知る。
「泣くなら、俺のことだけにしろ」
「……っ」
「他は許してやんねぇぞ。俺が横にいるのに、俺以外に心奪われるなんて」
それは冗談にも思えない王様口調だけれど、実にふて腐れた言い方で。
今までこのひとに、どれくらい泣かされ(啼かされ)ただろう。
あたしもどれほど、恨み言を向けただろう。
そうか、この件は須王も罪悪感を感じているのか。
あたしの心に、共鳴して辛いのか。
ならばあたしは、涙を拭って前を向かないといけない。
過去に囚われるのではなく、未来に向けて出来ることを今したい。
……そう思えるようになったのは、きっと須王のおかげだ。
「弱気になってごめん。女帝と小林さんが生きて戻ってくるように、あたし最善を尽くす」
須王は返事の代わりに、あたしの頭をぽんぽんとして、微笑んだ。