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エリュシオンでささやいて
第13章 Moving Voice
「うぉっと……、須王の電話に、棗くんからだ」
その時、すぐに応答出来るようにと、充電器付の専用ホルダーに置いてあった須王のスマホがブルブルと震え、運転している須王に代わり、あたしがスピーカーにして応答した。
『ねぇ、上原サン。あのふたりがスタジオから出てから、あなたに連絡してきた時間帯を教えてくれないかしら。確か渋滞しているっていうことだったわよね』
「うん。渋滞に巻き込まれたお知らせだった。時間は……ちょっと待っててね」
女帝から連絡が来たのは、LINEでの一度きりだ。
LINEを見て、その時間を告げる。
『うーん、やっぱりおかしいわね』
「どういうことだ、棗」
『このソフト優秀で、発信機を取り付けた以降の軌跡を記録してくれているの。それで念のためその軌跡と、今に至るまでの交通状況を調べて見たら、彼女の車が動いている付近で渋滞はなかった。もっと言えば、その時間帯に都内の道路は裏道も含めてどこも渋滞していないの』
「え……でも……」
渋滞に巻き込まれているとそう書いていたのは、女帝だ。
大仰な形容だったのだろうか。
『それでね、上原サンがLINEを受けた時間、彼ら……病院からの帰りだったの』
「病院って……、まさか遥くんの?」
『ええ、そのまさか。病院の駐車場に15分ほど停めて、動き出している』
女帝、寄るとか言ってたっけ?
しかしどう考えてもその記憶がないし、須王に聞いても彼も聞いていないという。