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エリュシオンでささやいて
第13章 Moving Voice
「だとしたら選択肢は絞られる。三芳達は出てすぐ拉致されたパターン。犯人は三芳の車で早苗を病院から連れ出し、裕貴の家に置いた後、三芳から奪いとった彼女のスマホで、本人になりすまして柚にLINEをした後、車をショッピングモールに停めて、自分は後で用意していた車かなにかで再び裕貴の家に戻り、ドーベルマンに薬を飲ませた。俺が追いかけた時車が動いたから、もしかしてひとりがあっちこっちとアクティブに動かなくても、複数人の犯行だったのかもしれねぇ」
須王は眉間に皺を寄せながら続けた。
「もうひとつは……三芳か小林、いや両方が敵に操られていたという可能性。それはAOPかなにかの強制暗示があったと考えれば、スタジオでは普通だったのだから、車に仕掛けられていた可能性が高い。ただAOP自体に指示力はないから、どこかで直接指示出来る誰かと接触しないといけねぇな。それが、裕貴の家で俺が逃した奴かもしれねぇし」
『須王が逃した男は、小林さんだったのかもしれない。実は早苗の顔もギミックで、その下に奈緒の顔があったとしたら、それを隠すために彼女を連れて逃げた……という可能性もあるわね』
「でも奈緒さんが、即興で裕貴くんのお姉さんのふり出来るの?」
「確かにそこがひっかかる。長く接触していないと、仕込むことは出来ねぇだろうし。三芳はド素人なんだから」
『どちらにしても、車の動かし方さえわかればある程度絞られてしまう。そう考えたら、随分お粗末よね』
「ああ。俺もそう思う。棗の裏がなければ、三芳の車の動きは、三芳達を疑わざるを得ない状況だ。大体第三者の目撃証言が出るような杜撰な真似、組織の関係者がするはずはないだろうし」
女帝のふりをする必要性はなんだったのか。
「奈緒さんも小林さんは被害者だよ。ふたりにおかしな罪を被せられる前に、早く救出してあげないと!」
あたしに向けられていたSOS。
あれは女帝の叫びだと信じて。