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エリュシオンでささやいて
第13章 Moving Voice
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棗くんの声のナビに従っての、カーチェイスが始まった。
誰を追っているのかわからない、ただ記憶にある女帝の車を追って須王はハンドルを切りながら車を走らせる。
『次の信号右折』
運転する須王は男らしい……などと見惚れている場合ではなく、棗くんの言葉すべてを聞かずして、瞬時に判断して応じられる須王の見事なハンドル捌きに秘やかに簡単しながら、あたしは左に右にと揺られる。
どんな高性能ナビよりも、棗くんのナビに安心出来るのは、棗くんが須王の相棒として相応しい有能であることを、あたしも須王も心から認めているからだ。
生まれ持っていた瞬発力に加えて、修羅場慣れした経験が的確さを後押ししている。
それはきっと須王も同じで、だからふたりは秒より僅かな時間で伝達しあえるのだろう。
あたしだったら、その場での即断に向いてないから、絶対須王の足手まといになる。彼の足手まといになりたくなければ、おとなしく乗っているしかない。
『……この先、混み合っているから、道を変えて先回りした方がいいわね。二本目の小道を左』
「了解」
突然の車線変更、ごめんなさい。
キュキュとタイヤの音をたててしまい、歩行者の皆さん、驚かせてごめんなさい。
モグモグは左右の窓に向けて、ぺこぺこ頭を下げてフォロー。
黙っていても、出来るメスモグラにならないとね。
『次を右』
狭い裏路地ぎりぎりに高級外車が走るなんて、まるで映画のようだ。
『そのまままっすぐ駆け抜けて』
しかし――直線の終焉には、道がない。
正確に言えば、長い下りの石段が待ち受けており、突き当たる場所が見えず、かといって進路変更するにも左右に道がない。
まさかの棗くんのナビミス!?