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エリュシオンでささやいて
第13章 Moving Voice
 
 いつもの如く、涼しげな顔で運転する王様の横顔。
 直前にどれだけのハードアクションがあったのかを物語るのは、きっとぐしゃぐしゃになったあたしの顔だけだ。

 こんなアクションをさせられたなんて、可哀想な高級外車だ。
 いや、こんな高級外車だったから、可能だったのか。

「柚、鼻!」

 しかも好きなひとに、こんな顔を見られるなんて。
 なんの罰ゲームなんだろう。

 あたしはえぐえぐと、ポケットティッシュを取り出して、鼻をかむ。

『ミッションクリアおめでとう。上原サンの理解不能な悲鳴、後で須王の着メロにしておくわ』

 途端に鼻をかむ音が、豚さんのようなフゴッというまたもや可愛くないものになってしまいながら、冗談じゃないとぶんぶんと頭を横に振った。

「それはいい。俺のスマホ、これからマナーモードは厳禁だな」

 あたしは須王の手を叩いて抵抗の意を見せると、須王はさらに爆笑しながら、あたしの背中を撫でた。

 この、ドSめ!
 
『上原サンが頑張ってくれたおかげで、先回り成功よ。三叉路の右側で信号待ちをしている三台目がターゲット』

 一気に現実に返り、また違う恐怖があたしの涙を引っ込めさせる。

『裕貴の家を出るわ。一旦スマホを切る』

 棗くんの音声が途切れた。

「横に着けて、運転手の顔を拝もうじゃねぇか」

 須王の目が好戦的な光を宿し、ぐんと車は加速する。
 これは怖い物見たさの好奇心というよりは、なんだか怒っているかのようで。

 そしてあたし達は、女帝の車の横につくことに成功した。

 後部座席には、項垂れるようにしてふたりの男女が座っている。

 あの服装、あの顔は――。


「須王、女帝と小林さんだよ!」


 あたしは興奮しながら須王に言った。

 問題は、生きているのか死んでいるのか、だけど、ふたりは絶対死んでいない。あたしはそう信じている。

 
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