この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
エリュシオンでささやいて
第13章 Moving Voice
「……着けるぞ」
須王の堅い声と共に、車がすっと隣車に並んだ。
運転していたのは――。
「え、朝霞さん!?」
それは行方不明になっていたはずのオリンピア社長の朝霞さんで。
彼は顔をこちらに見せた。
「――っ!!」
その顔は、右半分が凄惨に赤く爛れていた。
まるで酷い火傷をしたかのようなケロイド状になっていたのだ。
なに、一体なにがあったの!?
思わず両手で口を押さえて息を呑み込むあたしと、恐らく表情を変えたであろう須王の眼差しを受けた彼は、悲しげに笑うと、唇を僅かに動かしてハンドルを突然切って右折してしまった。
「やべ、逃した」
〝エリュシオンで〟
確かに、彼はそう言った。
「でもあいつ、エリュシオンって言ってたな。木場に向かうか」
目の前に青い道路標識がかかっていた。
朝霞さんが向かった、右にある地名は――。
「須王、千駄ヶ谷に行ってくれる?」
「え?」
「木場に移る前の、千駄ヶ谷のエリュシオン跡に朝霞さんはきっといる」
あたしには妙な確信があった。
それは同じ処で働いていたゆえの、共感なのかもしれない。
「朝霞さん、あの顔どうしたんだろう。まさか……」
「……あいつが関わっているのが俺の知る組織であるのなら、失敗は許さない。まだ使い途があるのなら、もう二度と失敗しないために、体の一部を痛めつけ、体に恐怖を刻み込ませる」
最後に会った時、朝霞さんがあたし達を逃したと組織が見なして、そのために朝霞さんのあの綺麗な顔が焼かれてしまったというの?
ぞくりとした。
もしそうなら、朝霞さんに恨まれても仕方がないことをあたしはして、こうして生きながらえているのだ。