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エリュシオンでささやいて
第13章 Moving Voice
 

「……着けるぞ」

 須王の堅い声と共に、車がすっと隣車に並んだ。


 運転していたのは――。


「え、朝霞さん!?」


 それは行方不明になっていたはずのオリンピア社長の朝霞さんで。

 彼は顔をこちらに見せた。

「――っ!!」

 その顔は、右半分が凄惨に赤く爛れていた。
 まるで酷い火傷をしたかのようなケロイド状になっていたのだ。

 なに、一体なにがあったの!?

 思わず両手で口を押さえて息を呑み込むあたしと、恐らく表情を変えたであろう須王の眼差しを受けた彼は、悲しげに笑うと、唇を僅かに動かしてハンドルを突然切って右折してしまった。

「やべ、逃した」

〝エリュシオンで〟

 確かに、彼はそう言った。

「でもあいつ、エリュシオンって言ってたな。木場に向かうか」

 目の前に青い道路標識がかかっていた。

 朝霞さんが向かった、右にある地名は――。

「須王、千駄ヶ谷に行ってくれる?」

「え?」

「木場に移る前の、千駄ヶ谷のエリュシオン跡に朝霞さんはきっといる」

 あたしには妙な確信があった。
 それは同じ処で働いていたゆえの、共感なのかもしれない。
 
「朝霞さん、あの顔どうしたんだろう。まさか……」

「……あいつが関わっているのが俺の知る組織であるのなら、失敗は許さない。まだ使い途があるのなら、もう二度と失敗しないために、体の一部を痛めつけ、体に恐怖を刻み込ませる」

 最後に会った時、朝霞さんがあたし達を逃したと組織が見なして、そのために朝霞さんのあの綺麗な顔が焼かれてしまったというの?

 ぞくりとした。

 もしそうなら、朝霞さんに恨まれても仕方がないことをあたしはして、こうして生きながらえているのだ。
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