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エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice
旧エリュシオンは工事現場となっている。
朝霞さんは、どこにいるのだろう。
ぐるりと須王と回ってみたが、朝霞さんが運転していた車が見当たらない。
え?
どうして?
「車をどこか別の場所に置いてここにきたのだとすれば、小林達が人目につくはずだ。それを回避するとすれば、小林達は車のの中か、近場に置き去りということになる」
「いやいや、それは困るよ。第一目的は2人の捕獲なんだから」
須王はその怜悧なダークブルーの瞳を光らせる。
「朝霞は切り札を置いて、単身で乗り込むアホじゃねぇ。なにより俺の勘が朝霞は近くにいると告げているから、場所違いでもねぇだろう」
……須王って、超能力者みたい。
なんでも出来る上に、なんでもわかってしまう。
「となれば……、残るひとつの可能性」
須王が、灰色のシートを手にして捲る。
すると――。
「あった!」
そこには、見たばかりのセダンが止まっていた。
後部座席に、女帝も小林さんもいない。
ひと目につくことなく、ゆっくりと奥に運ばれたようだ。
シートの中は、足場が組まれて、建材が積まれているものの、建物自体が作られている形跡はない。
いわば、材料が道となる、迷路のようになっていた。
「え、工事は? 断念していたのかしら」
すると掌を見た須王が言った。
「シートを持った手が真っ黒だ。この様子では、数ヶ月どころの断念じゃねぇな。……可能性は二つにひとつ。最初から工事などする予定もなく、ダミーとしてシートを被せていた。もうひとつは、予定の工事よりも大きな力が働き、途中で工事は中断している……か。どちらにしろ、何年も工事していれば近隣が不思議に思うだろうから、一軒分が出来上がる半年前後というところか」
ダミーとして、最初から工事をしているふりをしているのなら、別に目的があったということになる。
なぜ旧エリュシオン跡で?
中断させられる力が働いたというのなら、誰がどうして?
どちらにしても、この場所で誰かの意思が働いているのが、妙に背中がぞくぞくしてしまうんだ。
この場所は神聖でいて欲しかった。
誰かの意思で穢されているのなら、許したくない。