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エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice


 あたしが顔をそらしたのは、朝霞さんの顔に醜い傷が出来たからではない。
 そうさせてしまったのは、自分だと思う罪悪感から目をそらしたのだ。

 もしもあの時、おかしなものをつけられていた真理絵さんもいたあの時に、あたしがさっさと捕まっていれば、朝霞さんは綺麗な顔のままだった。

 あたしのせいで、朝霞さんの顔は爛れてしまったのだ。
 
 そう思ったら、今までのようにまっすぐなど見れない――。
 
「お前、柚に責任をなすりつける気か?」

 不意に須王の言葉が、重苦しい空気を切り裂いた。

「柚が悪いのか?」

 それはどこか憤っているような声で。

「いいや」

 朝霞さんは、きっぱりと答える。

「これは、自分で招いたこと。後悔もしていない」

 昔から朝霞さんはそうなんだ。
 すべてを背負おうとして、誰のせいにもしなかった。

 ……姿が変わっても、ここに変わらない朝霞さんがいたから――。

「朝霞さん、助けてくれてありがとうございます」

 ようやく、あたしは朝霞さんを見た。

「朝霞さんの自己犠牲で、今のあたしはいる」

「そんなのじゃない」

「いえ、そうです。朝霞さんは、昔となにひとつ変わっていない」

「……っ」

 今度は朝霞さんが、怯えた目をしてあたしからそらす――その隙に、須王がシャープな顎で、ある方向を促した。

 それは、朝霞さんの斜め後ろ。
 鉄筋が僅かに積み重なっている奥側に、こちら側に顔を向けて横臥して目をつぶっている女帝と、その奥にこちら側には背を向けてはいるが、小林さんらしき姿がある。

 Dead or Alive?

 不意に棗くんの声が蘇る。
 
 この距離からは確認出来ないが、須王は僅かに頷くようにして「大丈夫だ」と告げた。

 なぜにこの距離から安否がわかるんだろう。

 それだけ須王は、ひとの生死と向き合うような凄惨な過去を経験していたとも言えて、複雑な気分にもなるけれど。

 須王から出た言葉だから、あたしは信じられるんだ。
 ……昔はなにひとつ信じられなかったのにね。
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