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エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice

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場所は変わって、T大付属病院。
かつて小林さんが入院していた場所に、朝霞さんは棗くん経由の特別ルートで運ばれ、緊急手術を行うことになった。
そして目の前には、精密検査を終えて異常がなかった、女帝と小林さんがいて、あたしは女帝に抱き付いてわんわん泣いた。
女帝が無事だったのは、須王と棗くんと、遥くんの存在があった。
――驚きだろう? しばらくなんの連絡もなかった遥から、LINEが来て。
あたしと須王と共に、アウディに乗り込んだ裕貴くんはそう語った。
メッセージはふたつ。
『裕貴、行こうとしている場所より、一本手前の道にある「ひだまり公園」のベンチを見て』
『それと水が必要になると思うから、水飲み場で出来るだけたくさん水を持っていって』
顔を見合わせ、公園に赴いた裕貴くんと棗くんの目に映ったのは、ベンチでぼんやりとした顔で座っている小林さんの姿だったらしい。
遥くんがなぜ小林さんの居場所を知っていたかはわからないが、「なにか」に備えて、転がっていたバケツに水を入れた棗くんが、工事現場である旧エリュシオン跡に駆けつけてくれたようだ。
一方、須王は――。
――なんのために、俺がナイフを手放してまで、銃ごとシートの外に出したと思っている。
棗くんがGPS機能を使い、必ず旧エリュシオン跡地にやってくると確信していた須王は、きっともう近くにいると思った棗くんに、置かれている状況と場所を知らせていたそうだ。
あたしといえば、棗くんが来てくれる可能性すら頭の隅にもなかったために、そこまで考えて動いていた須王に脱帽だ。
まあ、シートの外で一般人が先にそれを見つけて大騒ぎをしていたらどうだったんだ……という懸念もなくはないけれど、終わりよければすべてよし。
――朝霞が語ると、殺気が飛んできた。
殺気探知機と化した須王は、既に小林さんではない男を見抜き、棗くんの気配を辿っていたらしい。
須王の思惑を察し、敵の銃を須王に渡した棗くんと、棗くんの出現を感じ取って動いた須王との絶妙なコンビネーションで、あたし達は事なきを得たのだ。

