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エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice

 

 数時間後、手術室に医師やナースが慌ただしく出入りする。

「どうしたんですか? 危険なんですか?」

 しかしナースは頑なに答えを拒んで、走っていなくなる。

 一体、なに?

 やけにドキドキとする心臓。
 嫌な予感なんて、万が一にでも感じ取りたくないのに、肌の毛穴がぶわりと開くようなこの気持ち悪い感覚はなんなのだろう。

 朝霞さんは、なぜあの格好で焼かれたんだろう。

 動かない足――。

 ざわざわと、産毛すら逆立つ。

 立ち上がれない体――。


「……柚?」


 椅子――。

 鳥肌が立ち、体が寒い。

 椅子が倒れて、頭が――。


「柚!」

 気づくと須王に抱きしめられていた。

「ゆっくり、ゆっくり息をしろ」

 そしてあたしは、息をしたくても呼吸が出来ないことにパニックになる。

 どうして、呼吸が出来ないの?
 
 怖い。
 怖い。

「す、すお……」

 焦る。

 呼吸をしなくちゃ。

 死んじゃう。
 死んじゃうよ。

 あの子みたいに。

 あの天使みたいに。


 違う、天使は生きている。

 天使は。
 天使は。


――……お姉サン。



 途端に唇から入り込むのは、酸素のような空気。


――……またね、お姉サン。


 それはあたしの五臓六腑に染み渡る。

 あたしは、生きている。
 あたしは、活かされている。

「……柚、落ち着いたか?」

「ん……」

 あたしは須王の胸に頭を凭れさせる。

 頬を撫でるその手が優しくて、熱くて――はっとする。


「……」


 真っ赤な顔をしたギャラリー。
 
 特に裕貴くんが、熟れすぎて落ちる寸前の完熟トマトだ。
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