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エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice

 ああ……、あたしは。

 皆の前で公開ちゅーをして、彼に抱き付いてとろんとしまっていたのだと悟り、行き場のない羞恥と屈辱さに、須王を涙目でキッと睨む。

「俺のせいか? ん?」

「……っ」

「いつもこんな程度じゃねぇだろ? 皆にこんな生温いのをしていると勘違いされても困るな。だったら見せてやるか。柚……」

「いりません、しません。いやー!!!!」

 顎を掴まれたあたしは、やはり涙目で。
 そしてなぜか、大爆笑されたのだった。

 そんな時靴音がして、いつの間にかいなくなっていた棗くんが戻ってきた。

「――朝霞、下半身の火傷で重篤だって。皮膚移植はしているけれど、追いついていないようよ」

 冷ややかにも思える声に、場が静まった。

「このままなら熱傷創に細菌が繁殖して敗血症となる。もって2日。仮に意識が戻ったところで、地獄よ。だから……このまま眠らせた方がいいか、決めて欲しいって」

「眠らせてって……」

「ええ、安らかに死ねるように」

 あたしから出た言葉は、早かった。

「いやよ。朝霞さんにはもっと聞かなきゃいけないの。生きていて欲しいの」

「上原サン。こういっちゃなんだけれど、生きることで恥を晒すことになるかもしれないわ、彼」

 あたしはまっすぐに棗くんを見つめて言う。

「それでも。朝霞さんの生死を、あたし達に決める権利はない。それをしてしまったら、あたし達と朝霞さんをあんな目に遭わせた奴らと、なんら違いがないわ」

 そう言いながらも、須王の服を掴むあたしの手は震えていた。
 だからきっとそれを隠すために、須王がその手を握ってくれたんだろう。

「……棗。人工皮膚は?」

「時間がかかりすぎるし、範囲が広すぎる」

 須王の言葉を、棗くんが却下した。

「だけど、人工皮膚が届くまでの間、繋ぎとして速効があるものがあるとすれば、可能性はひとつ……。遥の異常性に賭けること」
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