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エリュシオンでささやいて
第3章 Dear Voice
 

「OK。だったら、これから今、俺がギターパートをシンセで三回弾くから、大至急15分以内で譜面を作ってくれ。ギタースコアでなくて、普通のピアノの楽譜でいい」

「ひっ!? 15分以内!?」

「ああ。お前が譜面を作らないと、このギターリストはギターを覚えてくれなくてさ」

 あたしは涙目できっと睨むと、裕貴くんは申し訳なさそうにした。

「俺、目で見て耳で覚えるタイプで……」

 早瀬は立ち上がってシンセの前に立つと、シンセのカバーケースのポケットからノートらしきものと、シャープペンを取り出した。

「五線譜を入れて貰ってたんだ。……ある程度でいい。全体を把握出来ていないから、このままじゃせっかくのアレンジも話にならん」

「……っ」

 少年っ!!
 自信あると言ってたでしょう!?

「絶対音感、ファイ」

 あたしはもう一度、唇を震わせながら裕貴くんを見る。
 彼は、殊勝にぺこりと頭を下げた。

「お願いします」

 あたしは早瀬から五線譜を奪い取り、シンセに背を向け壁に五線譜を押しつけるようにして、シャープペンを手にして構えた。

「どうぞ」

 もう、やけくそ!
 どっからでもかかってきなさい!

 ピアノに背を向けて、弾かれたピアノの音の聞き取り(聴音)や、楽譜から音を読み取る(読譜)練習――いわゆるソルフェージュは、小さい頃から親やピアノの先生にやらせられてきた。

 そうしたソルフェージュは音大の推薦を取るためにも必要で、楽譜が読めなかった早瀬を通して、彼との遊びで、記憶聴音(複数回聞いてから楽譜にする)や初見読譜(楽譜を見てすぐに演奏する)の練習もしたのだ。

 音大の推薦を取り消されてから六年間、聴音の訓練はなにもしていない。
 よりによって早瀬とまた高校時代と同じようなことをするのは、非常に辛くて背を向けたけれど、そんなことを言ってられないのだ。

 ……あと約四十分。泣き言は言ってられない。

 
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