この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
エリュシオンでささやいて
第3章 Dear Voice
「OK。だったら、これから今、俺がギターパートをシンセで三回弾くから、大至急15分以内で譜面を作ってくれ。ギタースコアでなくて、普通のピアノの楽譜でいい」
「ひっ!? 15分以内!?」
「ああ。お前が譜面を作らないと、このギターリストはギターを覚えてくれなくてさ」
あたしは涙目できっと睨むと、裕貴くんは申し訳なさそうにした。
「俺、目で見て耳で覚えるタイプで……」
早瀬は立ち上がってシンセの前に立つと、シンセのカバーケースのポケットからノートらしきものと、シャープペンを取り出した。
「五線譜を入れて貰ってたんだ。……ある程度でいい。全体を把握出来ていないから、このままじゃせっかくのアレンジも話にならん」
「……っ」
少年っ!!
自信あると言ってたでしょう!?
「絶対音感、ファイ」
あたしはもう一度、唇を震わせながら裕貴くんを見る。
彼は、殊勝にぺこりと頭を下げた。
「お願いします」
あたしは早瀬から五線譜を奪い取り、シンセに背を向け壁に五線譜を押しつけるようにして、シャープペンを手にして構えた。
「どうぞ」
もう、やけくそ!
どっからでもかかってきなさい!
ピアノに背を向けて、弾かれたピアノの音の聞き取り(聴音)や、楽譜から音を読み取る(読譜)練習――いわゆるソルフェージュは、小さい頃から親やピアノの先生にやらせられてきた。
そうしたソルフェージュは音大の推薦を取るためにも必要で、楽譜が読めなかった早瀬を通して、彼との遊びで、記憶聴音(複数回聞いてから楽譜にする)や初見読譜(楽譜を見てすぐに演奏する)の練習もしたのだ。
音大の推薦を取り消されてから六年間、聴音の訓練はなにもしていない。
よりによって早瀬とまた高校時代と同じようなことをするのは、非常に辛くて背を向けたけれど、そんなことを言ってられないのだ。
……あと約四十分。泣き言は言ってられない。