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エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice
 

 目の前には、上野公園で見た顔がある。

 9年前の記憶を掘り起こして、消えてしまった――天使の顔。

 そしてそれは、病院で見た裕貴くんの幼馴染みの顔でもある。

 透き通るような肌の白さは、白皙を超えて病的なものも感じるが、見える手足は至って健康そうで、矛盾された美妙さにくらくらしてしまう。

「お姉サン、また会えたね」
 
 にこにこと微笑むその顔は、美少女と言っても過言ではない。

 あたしの周りには、どうしてあたしのような平凡顔がいないのかと思うくらい、皆それぞれに異常に整い過ぎている。

 中でもこの天使の顔は、まるで現実味を覚えないけれど。

「どうして、こんなところにいるの、あんた」

 闖入(ちんにゅう)者に、なにをどう反応していいのかわからなかったこの場で、次に口を開いたのは女帝だった。

 彼女も動揺を隠せないのか、声を意志的に押し鎮めているようだ。

「やだなあ、オバサン。もう僕が言ったことを忘れたの? 僕は入院病棟の方で歌っていたんだよ。音楽療法のボランティアで」

 にっこりと、天使の顔から悪魔のような毒が吐かれ、指をさしたのは壁に張られてあるポスター。

『天使の歌声で癒やされよう 音楽療法士によるヒーリング スタッフ募集』

 音楽……。

 HARUKAは歌手だとわかっているけれど、朝霞さんの言葉が離れない。

――エリュシオンは音を奏でる者に開かれている
 
 誰が敵?
 誰が味方?

 彼は今、なぜ現れたの?
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