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エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice

「……その地声からすると、ソプラニスタか」
「ねぇ、無視しないでよ」
「バックに誰がついている」
「誰もいないって。あのボランティアのことを言っているのなら、ここの病院だけど」
「そんなこと聞いていねぇんだよ!」
ガァァン!
再度叩き付けられた拳。
今度は塗装が一欠片、上から落ちてきた。
……恐らく須王なりに加減をしているんだろうけれど、本気を出したらこの壁、崩れるんじゃないだろうか。
「やだなあ、カッカしないでよ。落ち着かせてあげるからさ」
そんな中、天使は歌う。
9年前に聞いたあの歌――そう、須王が口にした十悪、「瞋恚」の歌を。
まるで声の洪水。
圧倒的な歌唱力。
圧倒的な存在感。
歌い終えた後も、その余韻にぼぅっと惚けてしまったくらいで。
「バックにいるのは、組織……エリュシオンということか?」
「さあね。こんなもの、一度聞けば歌える。皆そうさ」
「皆?」
「ああ。遥でありHARUKA」
それは嘘をついているようには見えないのに、どうして明確な答えがあたしの中に出てこないのだろう。
そしてそれは、怜悧な目をしている須王も同じようで、だからこそ彼は一層苛つく。
だが、ため息をついて頭をがしがしと掻くと、須王は嫌々そう言った。
「どうしても答えたくないのならいい。お前の言葉ではなく、お前の音楽に聞くとする」
「え?」
天使が目を瞬かせると、須王がにやりと笑った。
「裕貴がギター、棗がベース、小林がドラム。ちょうど俺がプロデュースする『HADES』にボーカル募集をしていたところでね」
待て待て待て。
「須王、なにを……っ」
あたしの声が悲鳴のように裏返る。
「新生HADESに、こいつをいれる。歌唱力は問題ない」

