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エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice

「ぼ、僕の意見は……」
「元から聞くつもりはねぇ。恨むなら、俺の前にのこのこ現れた己を恨め」
……天使が、どんなつもりで現れたのかわからない。
入院病棟で歌を歌っていたにしても、病棟とここはかなり離れている。
手術室前は、ふらりと立ち寄れる場所でもない。
だから天使の言い訳は、あまりに苦しいものだ。
それでも、どこか彼は今までともまた違う空気があったから。
なにがバックにいても、辛辣であろうとも、彼の意思というものを感じたから。
僅かに、親近感を覚えたのは事実。
「だったら、次に会う僕に言って」
「は?」
「だって、僕、これからこの中に入るように命じられているから」
天使が指さしたのは手術室だった。
「恐らく、入ったら出てこれない。だけどちゃんと伝えておくよ、嬉しい勧誘を受けるから、ちゃんと会いに行けって」
天使は、悲しげに笑った。
「まさかそんな提案貰うとは思ってもいなかった。裕貴と、一緒に音楽……したかったなあ。大好きな早瀬さんの曲、僕も歌いたかったなあ」
ほろりと、目から落ちた涙。
それを隠すように身を翻した天使が手術室の方に歩くと、待ち兼ねていたようにドアが開き、手術服を着たナースや医師が頭を下げて、天使を迎え入れた。
「ちょ……HARU、遥!?」
裕貴くんの声に、天使は笑って振り向き、片手をひらひらと振って消えていく。
天使と目が合うと、彼は唇をこう動かした。
『またね、お姉サン』
そして――手術室のドアが閉められたのだ。

