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エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice

あたし達が認識する〝存在〟とは、なんなのだろう。
同じ肉体なのか。
同じ記憶なのか。
たとえば裕貴くんとそっくりな肉体を持つ少年が現れて、裕貴くんの記憶を持っていたら、あたしはそれを裕貴くんだと認識出来るのだろうか。
この世に同時期、或いは入れ替わりで多数存在している――、いわば多次元を凝縮したような並行世界(パラレルワールド)。
それをあたしは受け入れられるのだろうか。
「これって、危険よね」
女帝が重々しく言った。
「自分と同じ意見の個体を増やすことが出来るのなら、どんなことでも数で押し切れるということじゃない。民主主義の日本は多数決で決定するのが主よ。だとすれば、これは勢力となれる、危険分子よ」
……組織エリュシオンは、だから天使や黒服を増産して実験していたのか。
彼らの意思など無視して、違う誰かの命令を遂行出来るように。
その時、須王と棗くんが帰ってきた。
二人が手にしているのは、温かい飲み物だった。
「ありがとう」
須王がくれたのは、柚レモネードだ。
揶揄でもなさそうだから、素直に受け取った。
「工事現場で小林のふりをして俺が縛り上げた男は、棗の仲間が回収していたんだが、消えたそうだ」
すっかり存在を忘れていたけど、囚われていたのか。
「まあ、死体処理の手間はなかっただけ、よかったのかもね。どこかで死体が転がっているかもしれないけれど」
棗くんがさらりと、笑えない冗談を言う。

