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エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice

「裕貴くんと音楽やりたいというのは、どの遥くんも変わらずに思っていて」
――裕貴と、一緒に音楽……したかったなあ。大好きな早瀬さんの曲、僕も歌いたかったなあ。
「……そう考えるとさ、『ちくしょう違う遥が、俺の知る遥のふりしやがって』とは思えなくて。また遥が現れたら、今までしたくでも出来なかったこと、したいなとも思って。俺も遥も、須王さんの音楽が本当に大好きだったから。心底憧れていた須王さんと音楽するの、夢のような出来事だから」
須王は手を伸ばすと、その大きな掌で裕貴くんの頭を撫でる。
「俺にとっては遥はやっぱり遥で。ああ、なんで俺ばかりいい思いして、遥に最近LINEしていなかったんだろうとか、なんで、遥がそんな目にあっているんだろうとか。ちくしょ……泣きたくねぇのに……」
裕貴くんの震えた声は、あたしの……いやきっとこの場にいた全員の心をも揺さぶった。
今日はめまぐるしく過ぎ、気づけばもう四時だ。
「ねぇ、美味しいもの食べようよ。裕貴の分、私がおごってあげるから、裕貴が好きなものにしよう。ステーキだろうが、寿司だろうが、お姉様に任せなさい!」
女帝が裕貴くんを勇気づけるようにして言うと、小林さんが笑った。
「そうだな、俺達もとんだ目にあったから、慰労会とするか」
あたしも同調し、女帝と裕貴くんと一緒にスマホでレストラン検索して、棗くんや須王にも意見を聞いていると、あたしの体がひょいと持ち上げられた。
そんなことをするのは、ひとりしかいない。
「悪い。俺と柚、抜けさせてくれ」
「え?」
「上手いケーキでも、柚に探させて買って明日帰る。だから……すまない」
須王が謝るのを奇妙に思って首を傾げると、女帝も裕貴くんも小林さんも、そして棗くんまでもがわかったというように頷いた。
「ごめん、柚。俺、自分で一杯一杯だった」
「私も。まずあんたに気づいてあげればよかった」
「え? え?」
「アウディ、あんたが使いなさい」
「え、棗姉さん、俺達歩き!?」
「がはははは。死にかけていた奴に優しいな!」
「柚、行くぞ」
「え、ちょ……」
それであたしを抱き上げたまま、須王は歩き出した。

