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エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice

「ちょっと、ちょっと皆―-っ!!」
手を振り返す皆から遠ざかり、あたしはぽかぽかと須王の胸を叩く。
「一体なんなの、ちょっと!」
それでも構わず須王は歩き、駐車場でぽつんと停まっている車の助手席にあたしを押し込み、自分は運転席に乗った。
「気分悪くねぇか?」
その眼差しが真剣だったから、どきりとする。
「え?」
「お前、すげぇ顔色してるんだよ。あのままあの中にいたら、お前気を遣って笑いながらぶっ倒れるぞ」
「じ、自覚ないんだけど……」
「気を張りすぎている証拠だ。俺相手なら、無理しなくていいだろう?」
ふっと笑う須王の目が優しい。
「さあ、どこにデートにいこうか。希望はある?」
「べ、別に……」
デート……。
なぜこの単語に、あたしの顔は緩んでしまうんだろう。
たった今、天使が死んで朝霞さんが生きたというのに。
どうして、こんなにそんな現実から逃避して、須王とふたりだけの世界に閉じ込められたいと願ってしまうのだろう。
「だったら俺がセレクトしようか。着いたら起こすから、寝てろ?」
須王があたしの頭をぐいと引き寄せ、彼の肩に凭れさせる。
「ん?」
王様で泣かされてばかりだけれど、それでも多分、誰よりもあたしに敏感で優しくて。
彼にとても抱き付きたい心地を押さえながら、シフトレバーを握る彼の手に、おずおずと手を重ねる。
もっと須王の温もりが欲しくて。
「どうしたよ? この甘えっ子」
ぞくりとするほどの甘い声。
あたしは聞いていないふりをして目を瞑った。
「……〝気をつけろ、お前達の中に〟……命を賭けた朝霞は、あの時の最後、なにを言おうとしたんだろうな。もう、柚を泣かせたくねぇのに……」
須王の悲しみに満ちた声を最後に、あたしは意識を沈めた。

