この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice

「なに嬉しそうにしているわけ、お前」
須王が笑ってあたしの頬を人差し指で突く。
「べ、別に、嬉しいわけじゃ……」
「このツンデレめ。だったら本気にラブホにすればよかったかな」
「え、違うの?」
「そんな残念そうな顔をするなって。後でたっぷり抱いてやるから。な?」
あたしの頭をぽんぽんと叩きながら、あたしを見つめる眼鏡をかけた須王の瞳は、妖しく揺らぐ。
……だから、抱いて貰えると喜ぶんじゃないの、あたしの理性!
「だったら、どこに行くの?」
エレベーターに乗りながら再度尋ねると、須王は笑って言う。
「ブルームーン」
「は?」
「知らねぇ? 丸の内にあるジャズクラブ」
「ええええ!? あの「Blue Moon」? え、ええええ!?」
……だから理性、ちょっと役目を果たそうよ。
ジャズクラブ「Blue Moon」。
老舗のジャズクラブで、大きなレストランやBARも兼ねているのだが、なにより見所は、国内外問わない有名なジャズアーティストの生演奏だ。
それは、以前あたしが吐いてしまったあの生演奏つきのホテルのレストランと似ているけれど、こちらの方はプロばかりの完全なるリサイタル。
きちんとチケットを買わないといけない、小コンサートホールでもある。
クラシック育ちののあたしですら知るこの場所は、お忍びで著名な音楽家達も通っていて、ちょっとした音楽サロンになっているとの噂もある。
どのゲストでも即売り切れるプレミアチケットを巡り、大金が動いているとも聞いたことがある。
その「Blue Moon」に、思いついたように行こうとする須王に脱帽だ。
さすがにかの有名な早瀬須王といっても、音楽界からしてみれば、まだ若造だ。チケットの手配は難しいだろう――。

