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エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice

中は暗くて、青い光が飛び交っていた。
まるで夜空に浮かぶ月の光のようだ。
ブルームーンの模倣なのだろうか、神秘的な空間だ。
奥にはステージが半円状に拡がり、本当にコンサートホールのようだ。
その端には黒いグランドピアノが置かれ、白いスパンコールのマーメイドドレスを着た女性が、しっとりとしたジャズピアノを弾いている。
今流行の若者達が踊り狂う、喧(やかま)しいライブハウスとは違い、無数に置かれた四人がけ用のテーブルと椅子に座っているのは、正装した上流客。
シャンデリアがないだけの、まるで高級ホステスでもついて談笑しているかのような、大人の空間だ。
後ろ側はBARカウンターがあり、これから演奏が始まるためか、客はいない。
背の高い椅子が横に並んだ円卓に座ると、若いウェイターがやって来て、須王は適当に注文してくれた。
すぐに出て来たノンアルコールの甘い飲み物を飲んだ時、ジャズピアノの曲が軽快なものに変わる。
二拍目にアクセントがくる、ワルツの曲だ。
「これ『Waltz For Debby』だな」
須王が言う。
「上手いけれど、手島さよりには及ばないな」
あたし見た手島さよりの動画では、彼女はソウルシンガーとも言えるような、かなりパワフルな演奏と歌声をしていて、とにかく迫力がある音を奏でていたように思う。
乱れることのないピアノを弾きながら、魂を込めた情熱的な歌を歌う……妖艶な美女でもあった。
そんな手島さよりの話や、とりとめない音楽の話をしていた時、不意に須王があたしの肩に手を伸ばして、須王の肩にあたしの顔をつけさせる。
「ちょっ、誰が見ているか……」
「いいだろう、これくらい」
青い光に照らされて、眼鏡をとった須王が甘い表情を向けている。
「俺の女だって、宣言させろよ」
そこに男としての色気を混ぜて、あたしを誘惑してくる。
く……、心臓に悪い男だ。

