この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
エリュシオンでささやいて
第3章 Dear Voice
三度目、楽譜を見ながら確認し、小節の上に基本となる和音名(コード)も書いていく。
コードも、タルタロスで聞いた曲と、ちょっと違えている部分があり、違えた方がなにかしっくりとくる。
やはり三度聞いても、すごく素敵な音の並び方だ。
繊細で泣き出したいほど切ない音から、力強く変わる様は、まるで幼なじみを励ましたいという裕貴くんの心象を広げているような。
ギターだけでこうなら、完成版はどうなるのだろう。
十二音でよくここまで世界が広がるものだ。
――柚、もう一回教えてくれよ。
――あはは、勉強が足りないよ、須王。
心がきりきりと痛む。
鼻の奥がつんと痛くなったが、それを意志の力で押さえつけて。
「出来ました。ちょっと間違いがあるかもしれませんが、大体のところは大丈夫なはずです。裕貴くん、ちょっと汚いけど、はい」
「ゆ、柚。何者!?」
「え、ただの一般人」
そう答えると、なぜか早瀬が大笑いした。
あたしが書いた譜面を見てからの裕貴くんは早かった。
「なんだ、こういうことか」
赤い三角おむすび型のピックを使って軽々と。
どんなリズムも難解なギターソロも、あっという間に音にしていく。
「え、え、ええええ!?」
素晴らしいリズム感。そしてピック奏法。
これが十七歳とは思えない。
顔つきからして違う。
「あのさ、この部分……コード違ってね? G#7sus4の気が……」
「え? どこ?」
裕貴くんが指さす楽譜に、裕貴くんと一緒に顔を覗き込んだら、早瀬が間に割って入ってきた。正しくは、裕貴くんが横にポイと放られる。
「ギターの練習!」
「わかったよ……」
「お前、ギターの譜面じゃなくてもいいんだな」
確かに、ギターの譜面は音符というより、数字が飛んでいる気がする。