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エリュシオンでささやいて
第3章 Dear Voice
「あ、うん。俺、小さい頃バイオリン習ってて、それで普通の楽譜の方がわかりやすいというか」
同じ弦楽器に属する楽器で、クラシックからの転向。
クラシックで鍛えたものは、今の彼の強みになっているだろう。
音楽は、ジャンルを超えてきっと人間の心に忍び入る。
どんな嗜好のひとでも、感動できる音楽、それを作ってみたいと思う。
裕貴くんのように曲を作り、早瀬のようにすぐアレンジして可能性を広げるようなこと。
あたしもこの曲をよくするために、頑張りたい。
「ねぇ、あたしも「上原、倉庫内か、ステージとは逆側にあるファミリー向けの小さなイベントスペースかを見て、お面をふたつ用意してくれ」」
「へ? お面?」
曲作りにお面?
「お面って、よく屋台に売ってるあのお面?」
「ああ。なんでもいい。裕貴の手伝いが俺だとばれたくねぇんだよ」
「え、あなたもステージで演奏するんですか?」
「このイベントは生演奏が必須だ。ギターで歌ってる裕貴から、ベースやシンセが流れたらおかしいだろう」
「いやまあそうですけど」
「シンセで音色に厚みを出すようにしてみる」
裕貴くんの後ろで、早瀬はベース弾いたりシンセ弾いたりしているということ? どうやって?
「でも楽器かけもちって、めちゃ大変じゃないですか? ベース両手塞がってるし」
「ああ。だからお前も入れよ」
早瀬が、毒の言葉とは裏腹に優しく微笑む。
「一緒にやろうぜ?」
「はああああ!?」
なに当然という顔をしているのよ、この男!!
あたしの指が動かないのわかっていて……っ!
「なぁ、上原」
早瀬は真剣な面差しであたしを見る。
「お前も、楽しく参加をして貰いたいんだよ」
眼鏡のレンズの奥で、切なげに瞳が揺れた気がするが、それを気にする余裕もないまま、あたしは怒鳴るようにして叫ぶ。
「出来るわけな「音が抜ける、一オクターブが弾けないというのなら」」
……聞いてたんだ、あたしが裕貴くんに言ってたこと。
「俺が弾かせてやる」
余計なお世話だ。
「同情は「同情じゃねぇよ、なんのために俺が音楽やってると思ってる」」
「え?」
あたしは訝しげに早瀬を見た。