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エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice

奥は階段。
覗いてといわんばかりに開いたドア。
お化け屋敷なみに怖い。
もしかして、中に殺人鬼とかゾンビとか怪物がいたらどうしよう。
ホラー嫌い。
スプラッター大嫌い。
逃げる?
それとも、そっとドアを閉めるのが先?
とりあえず、映画だろうがゲームだろうが、元来た道ではない別の階に移動することで、よかったねと思える展開になったことなどないだろうと、階段の使用は却下する。
そんな時、スマホが突然震えた。
あたしは声を上げてスマホを床に落としてしまったのだ。
カターンという硬質な音が響くと、不快な音声がぴたりと止まる。
気づかれた!?
床で震えるスマホの画面には、須王の名前が出ている。
あたしは、慌てて電話を拾って通話ボタンを押し、
「す、須王! ゾンビが……っ!!」
『ゾンビ?』
そして、ドアを大きく広げて現れた影に、あたしは悲鳴を上げる。
『柚、どこにいる!?』
「階段、ドア……」
おかしな角度で硬直した両腕と顔。
表情も恐怖の途中で固まったように開いた口を歪ませたまま、無理矢理に首を捻って、あたしを見上げたのは。
赤いスパンコールのドレスを着た――。
「手島さより……」
あたしは無意識にぷつりと電話を切った。
あたしが知る、ふくよかだった面影はなく、痩せ細って骨張っている。
頬は痩け、化粧で隠しきれないクマがあり、目は血走りギラギラしていた。
明らかに、様子がおかしい。
あたし、怖がりだからあまりゾンビ映画は見たことがないけれど、多分こんな感じで街を彷徨しているのだと思う。
あの奇声のような叫び声や、ものが壊れる音は彼女が?
それともまだ誰か中にいるの?
思わず見てしまった、彼女の赤いドレス。
その赤色は、彼女から流れる血の色に染まっている――わけではなさそうだ。

