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エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice
 
「誰、だ!?」

 ひぃっ!?

 地に響くような低い声もまた、恐ろしさに拍車をかける。

「ゆ、柚です。上原柚と申します!!」

 あたしは条件反射的に、叫ぶようにして言った。

「あいつら、に……見張れ、と言われた、のか!?」

 依然、不自然な角度の顔のまま、片言で怒鳴られ、あたしは竦み上がる。

「み、道に迷っただけで……」

 倒れたい。
 倒れてもいいですか?

「あいつら、の、手先っ、だ、ろう。私、はまだ、歌え、る! ピア、ノを、弾ける! まだ、出来、る!」

 あいつら?
 彼女は、なにと勘違いしているのだろうか。

 途端、彼女の体がぶるぶると震えて、奇声を発する。

「うあ゛あ゛あ゛あ゛! ポム、ポム!! あれが、ない、と私、歌え、ない!!」

 ポムがなんだかわからないけれど、これから人間の言葉が通じないゾンビに本格的に変貌するのか、怨霊にでも憑依されたかのように――彼女は激しい痙攣にも似た震撼を見せた。

 そして彼女は一気に床に崩れ落ちたかと思うと、そのまま四つん這いになり、匍匐(ほふく)前進でずるずるとドアに戻った。

 ゾンビだ。
 もうゾンビにしか見えない。

 今のうちに逃げなきゃ。
 でも足が動かない。

「――柚?」

 その声に頭だけ振り返れば、息を乱した須王だった。

「お前、なにスタッフ専用の別棟に行ってるんだよ。階段は確かここしかねぇからわかったけど、まったく別の方向だぞ!?」

「ごめ……」

「なにか、あったか?」

 あたしがカタカタ震えているのを見て須王が神妙な顔で尋ねる。

 あたしは小刻みに頷きながら、開いたままのドアを促した。

「て、手島さより、ゾンビ……」

「は?」

「普通じゃなくて。痩けているのに、目がぎらぎらして、声も低くて……」

 須王は怪訝な顔をしてドアを見つめたが、あたしの頭を撫でるとドアに向かう。

「駄目だよ、逃げなきゃ! 須王、須王もゾンビ……」

「んなもんいねぇって。此の世で一番怖いのは、そんなものではなく……生きた人間だ」

 妙な説得力はあるものの、そういう自信はここではない別のどこかで見せて欲しい。

「須王、やめて。須王!」

 あたしは泣きながら須王の服を引っ張るが、須王はあたしを引き摺るようにしてドアを開いた。
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