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エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice

 部屋の中は散乱していた。

 鏡も窓も割れ、壁も剥離しており、ガラスは危険な破片で満ちており、部屋の片隅で手島さよりは蹲っている。

 彼女の周りには、赤い丸型錠剤が散って小瓶が転がっていた。

 須王は錠剤を手に取ると、匂いを嗅ぐ。

「その薬、なんだろう。ポムっていってたけれど、奇声をあげてそれを飲みに戻ったの」

「他には? なにか言っていなかったか?」

「歌えるけれど、ポムがなければ歌えないとか。あたしはあいつらの手先かとか」

「あいつら?」

「よくわからないけど……」

 須王は、彼女の両肩を掴んで抱き起こす。

「危ないよ」

「大丈夫。俺の勘を信じろ」

 そして、須王は露出した彼女の背にちらりと見えた、なにかの模様のようなタトゥーに目を細めながら、彼女の体を揺すった。

「ん……」

 目を開いた彼女の顔は、まだ痩せこけているとはいえ、ぎらつきや充血は治まり、穏やかな生者のものへと変わっていた。

 ポム、凄い!!

 そして彼女はあたりを見渡した後、はっとして飛び起きて叫ぶ。

「今何時!?」

 落ち着きを見せたのは、声もそうだった。
 先ほどまでのおどろおどろしいものではなく、綺麗な歌姫の美声だ。

「八時、十分前です……」

 あたしが腕時計を見てそう言うと、彼女は床に転がっていたペットボトルの水を手に取った。

 キャップを外すと、ごくごくと荒々しい飲み方をして、部屋から出て行こうとする。

「休んだ方がいいんじゃないですかね?」

 声をかけたのは、壁に背を凭れさせ腕組みをしていた須王だ。

「そんなわけにはいかない。今日、歌いきることが出来なければ……私は、本当に危ないの!」

「……どう危ないんですか?」

「あなた……、もしかして早瀬須王?」

 さすがは音楽界で活躍しているだけのことはある。
 眼鏡をかけた超絶美形を、天才音楽家として認識したようだ。

「あなたも呼ばれてここにきたの? ジャッジする側に!?」

 今度は声に怯えが入る。
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