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エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice
 

 *+†+*――*+†+*

 ゾンビ化しそうだった初対面の歌手に、コラボを申し出た須王。

 ただの善意と思えない彼の出した条件は、ゾンビ化を鎮静させた〝ポム〟という赤い薬の正体と、彼女がなぜ〝ジャッジ〟こと、聴衆に怯えているのかを語ること。

 ……と言えば、若干のホラー要素があるかもしれないけれど、要するに須王は、彼女――手島さよりの背景に、あたし達を狙う馴染みの者達がいるのではないかと踏んだわけだ。

 そんなわけでデート中に突如実現した、コラボ企画。

 ただゾンビに怖がり、成り行きを傍観していただけのあたしとしては、実力在る音楽家達のコラボは、願ったり叶ったりの特別イベントとなったのは間違いない。

 須王の生ピアノに、手島さよりの生歌の組み合わせなど、死ぬまでにもう1回見れるかどうかの(十中八九見られない)超レアもの。

 特に規制もしていなかったから、スマホ録音準備もばっちり。

 絶対家宝にしてやるんだ。

 本当は最前列で聞いていたかったのだけれど、既に陣取られた中ではそれは無理で、ひとりおとなしくあの背の高いテーブルと椅子から、残されたローストビーフサンドをはむはむと食べて、見ていることとなった。

 朝霞さんは、組織新生エリュシオンは、音を奏でるひと達と言った。

 このジャズクラブには、音楽に関する著名人がいる――。

 恐らく顔を見て名前や経歴まで出てくるのは、顔の広い須王でないと出来ないだろうが、あたしだってマスコミを通して知っているひとがいるかもしれない。

 そう思って目を懲らし、聴衆を観察していたのだが、フロアに戻ってきた時既に、聴衆はなぜか目だけを覆った仮面(マスク)――ベネチアンマスクをつけていて、誰が誰だかよくわからない状況になってしまった。

 開演直前に、しかも暗い室内で仮面で顔を隠してなんだというのだろう。

 今さらじゃないか。

 仮装パーティでも始まめるつもりなのだろうか。

 上流客の考えることは、よくわからない。


 演奏者も聴衆も、共にどこか危殆を孕んだまま、開演となる――。
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