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エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice

 
「早瀬須王さんのピアノで始める最初の曲は、ロバータ・フラックの『Killing Me Softly With His Song』」

 スポットライトを浴びた手島さよりが、舞台の中央の黒いグランドピアノに控える須王に微笑みかけるようにして、まずは有名なサビをワンフレーズ、伴奏なしで歌い出した。

 邦題「やさしく歌って」でも知られる有名なこの曲は、もの悲しいメロディラインなのに、手島さよりの伸びやかな歌声で艶めき、須王のジャズアレンジした伴奏が、さらに彼女の世界を彩り、広げていく。

 あたしはローストビーフを堪能することも忘れたまま、ゾンビを返上して人間どころか奇跡の進化を遂げた彼女と、彼女の音程に合わせた伴奏だけではなく、それをアレンジ出来る須王のピアノに、今さらながら舌を巻く。

 どこにも、即興特有の微妙な呼吸のずれも感じられない。

 完全に、2人だけの世界が創り上げられていた。

 最初から示し合わせていたかのような息のあったところを見せるふたりは、次の曲であるクイーン『Somebody to Love』でも、期待を裏切らない。

 声量があることを見せつけるようなメロディラインに、須王の力強いピアノの和音が支え、ピアノソロでは原曲のギターソロにも負けない存在感を示す。

 相乗効果がとてつもない。

 共鳴して高め合えるレベルが高すぎるふたりの演奏は、場を妙な熱気に包んでいった。

 ああ、凄い。
 このふたりは、凄いよ。

 心にダイレクトに響くものがある。

 だけど――、以前ホテルのレストランでピアノを弾いてくれた時とは、また違う感想を持ってしまった。

 須王のピアノにより手島さよりの声が艶めき、痩せてもメリハリある肢体をくねらせる彼女に、須王は艶あるピアノで応えている。

 そんなふたりを見ていると、神の祝福のようなスポットライトを浴びながら、濃厚なセックスをして愛を確認し合っている恋人のようにも見えてきて、心がぎゅっと痛んでしまったんだ。
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