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エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice
 
 幾ら今、須王が愛してくれているといえども、音楽の才能を持つ魅力的な女性のパートナーになったら、須王の熱視線はそちらに向くだろう。

 こんなにムードたっぷりな音楽を奏でながら、音楽を通して心を重ね合うことが出来るのなら、体も重ね合いたいと思うだろう。

 それは至極当然の道理だと思うから。

 築き上げるのは長く時間がかかっても、崩壊するのは一瞬だ。

 あたしが須王を信じていたところで、須王が瞬時に他の女性に心を奪われてしまえば、あたしはそれを引き留める権利などない。

 その現実を目の当りにしたようで、ぐすっと鼻を啜ってしまった。

 あたし……どうして音楽を続けてこなかったんだろう。

 指が動かないからと指のせいにしないで、どうして指が動かなくても出来る音楽を模索しなかったのだろう。

 スポットライトを浴びた煌びやかなステージに立ちたいわけではないけれど、それでもスポットライトが似合う須王の横で、堂々と立ちたかった。

 容姿が釣り合わなくとも、音楽で対等に立てたのなら、須王の相手は自分だけなのだと、ひとに見せつけることが出来ただろうに。

 その時、テーブルにコトリとなにかが置かれた。

「アプリコットフィズです」

 注文した時の若いウェイターが、薄茶色のカクテルを差し出したのだ。
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