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エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice
 
「あの、頼んでませんが……」

「僕からのプレゼントです。美味しいですから、どうぞ?」

 ちょうどやけ酒でも飲みたい気分ではあったけれど……。

「でも……」

「お金は絶対とりません。どうぞどうぞ。飲んで元気を出して下さい」

 にこにこにこ。

 あたしが落ち込んでいると思って、カクテルを出してくれたのかな。

 だったら、無下に断るのも――。

「わかりました。では、お言葉に甘えさせて頂きまして、頂戴しますね。お気遣い頂いて、ありがとうございます」

 にこりと笑うと、なにか慌てたように頭を掻いたウェイターは、一枚の名刺もテーブルの上に置き、あたしの前に持ってくる。

 それはここのお店の名刺で、手書きで番号が書かれてある。

「あ、あの……。職権乱用したのは初めてなんですが、これ……僕の携番です。仕事中は出れないかもしれませんが、その必ず折り返しますので!」

「……」

 これは――。

「あなたの力になりたいので、いつでも……」

 あたしはその名刺に指を置くと、そのままテーブルの縁に移動させる。

「申し訳ありませんが、頂けません。そういうのはお断り致します」

「と、友達感覚で……」

「あたしには好きでたまらない恋人がいますし、彼を誤解させたくないんです。ましてや彼の知らないところで受け取っただけで、彼が悲しみます」

 須王と手島さよりに心を痛めるからこそ、あたしは須王に対して潔癖でいたかった。

 あからさまの好意がわかっていて、それを受けるわけにはいかない。

「ごめんなさい」

 そう、深々と頭を下げた時だった。

 ざわめく中、ツカツカとこちらにやってきた誰かが、テーブルの上のグラスを手に取ると、ゴクゴクと音をたてて飲み干した。

 それは、ステージにいたはずの須王で。

「な、なんでここに……っ」

 そして須王は、両手であたしの頬を挟むと、ウェイターや、恐らく聴衆や手島さよりが見ている中で、あたしの唇を奪ったのだ。
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