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エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice
 
「雑魚が。俺の柚に手を出そうとしやがって。たかだか一目惚れを訴えたくらいで、柚が好きになるはずねぇだろ。俺と柚との間には、皹すら入らねぇんだよ、ふざけんな」

「……逆は?」

 あたしは須王の服をぎゅっと握って言う。

「須王は、たとえば……音楽やってる美女から一目惚れされて、好きになったり……」

「それはねぇわ」

 迷いもなく、実にあっさりと。
 あたしのもやもやなど、一刀両断だ。

「だ、だけど……今までだってお誘いはあったでしょう? 音楽を口実に」

「俺、基本的に音楽利用する女嫌いだし。音楽中に媚びられたら、速攻出て行くし。そんな奴とは仕事したくねぇから」

 そうだ、須王は音楽に対してはかなりストイックだった。

「大体俺、お前以外の女を、女として見れねぇし。俺がお前に一途なの、まだわからねぇわけ?」

「そ、そんなこと言っても、手島さよりとは見つめ合って……」

 ぽろりと、真情を吐露してしまう。

「あのさ。確かに手島と顔を見合わせて弾いていたけど、俺、初めてあの場でピアノを弾くんだぞ? 相手がどのタイミングで歌うのか癖すらもわからねぇ、リハなしの真剣勝負だ。しかもジャッジがなにかとか言っている以上、まずいこと出来ねぇ。慎重に手島に合わせ、手島も俺に合わせていかねぇとまずいだろう」

「……」

 考えてみれば、そうだ。

 ゆったりと自分のフシで歌う手島さよりの歌声を伸ばそうと思えば、須王がタイミングを見計らって食らいつきながら、時にリードして歌を終わらせなければいけない。

 なにで合図するかって、それは多分……目配せとかだろう。
 つまり、頻繁に相手を見ていないと駄目だよね。

「まあ向こうもさすがはプロで、今の今までミスはねぇけど。これからは後半戦、気を引き締めてやらねぇとな」

 これは手島さよりのリサイタルなのだから。

 真剣に音楽をしていたふたりを、あたしったら!
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