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エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice

前半もたまに、異質なロックやディスコ調の曲があった。
曲自体は聞いていて楽しいからいいのだけれど、手島さよりならもっと聞かせる曲を歌えるのではないかと、なにか違和感を感じてしまうのだ。
特に『Johnny B. Goode』などは、メロディというよりエレキが耳に残るロックだ。いかにサビは馴染みがあるといえど、終始メロディラインに高低の差がないために、声量ある歌声が生かされないし、これは曲の完成度がどうというよりも、単純に選曲ミスだろう。
恐らくプロデューサーとして須王もそれを感じたのだろう、最初から転調をして曲を彼女の歌声に相応しいものに変えにいったが、手島さよりは転調には乗ったり、少しはアレンジを入れるものの、須王のような大冒険をしたりはせず、あくまで原曲に忠実にいこうとしているのが見えた。
だから余計、この曲は彼女に合わないなと思えてしまった。
ジャッジする聴衆のお好みに合わせて、手島さよりが歌うのだとしたら、なんで贅沢で傲慢な聴衆だろうと思う。
あたしなら、誰でも知っているような好きな曲のカバーより、手島さよりの魅力を引き出せるような、知らない曲を聴きたいけれど。
そんな聴衆は、テーブルの上でなにやら書き書きしているのが見える。
本当に審査をしていたようだ。
うわ、なに?
自分好みの曲を無理矢理歌わせて、判定して、どうしようというの?
仮面の集団が、なにか異様に思えてぞくぞくしてしまう。
「……おや?」
そんな中、手島さよりの声が次第にピッチがずれてきているように思え、あたしは目を細めた。
それは気づかなければ気づかない程度であるけれど、須王の弾き方も僅かに変わったということは、手島さよりをフォローするために動いたということだ。

