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エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice
 
「今、何曲目だっけ」

 よくわからなかったが、あと二、三曲は残っているように思う。 
 
 手島さより、公衆の面前でゾンビ化するとか!?
 
 パニック必至だわ!!

 ポムは!? ポム!

 はらはらしながらも、なんとか曲は終わっていく。

「ラストの曲は……ビリー……の……」

 息で乱した、手島さよりの声。
 体がぐらついており、須王が片手を取って支えたが、彼女は自分の足で立っていられないようだ。

 ゾンビ化の兆候なのか、近年活躍がなかった彼女の久しぶりの仕事で疲れたのか、それとも緊張感がピークを迎えてしまっているのか。

 彼女は、休んだ方がいいと思う。
 体調不良は見ていてわかるのだから、それで無理強いなどしないだろう。

「離して。最後の曲は……」

 手島さよりはやる気らしい。
 プロ根性というより、どこか切迫感を感じる。

「無理だ。やめた方がいい。へんな歌い方をしたら、喉が潰れるぞ?」

 須王の声を、マイクが拾う。

「やります。やらせて下さい」

 手島さよりは、問いかけた須王ではなく、聴衆を見て頭を下げる。

 そこまで、あの仮面達は怖い存在なのだろうか。
 彼らからは、須王に同調する声は聞こえない。 

「やめて休め。今を犠牲にして歌えなくなったらどうする?」

「歌えなくたって、死んだっていい。お願いします、やらせて下さい」

 やはり彼女は、聴衆に向けて頭を下げるんだ。

 彼女が売れない歌手なら、まだ客を大事にするのはわかる。
 だが彼女は世界的に有名なジャズシンガーなのだ。

 彼女だって、客を選ぶ権利はあるはずなのだ。
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