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エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice

「最後の『Honesty』で満足させられたら、いいのか」
須王が冷ややかな声を出す。
「俺は手島さよりと、客を満足させるために舞台に立っている。手島さよりが歌えないのなら、俺が……引き継ぐ責務がある。連帯責任だ。それを許したのは、俺が共の舞台に立つことを反対しなかった、客のあなた達だ」
須王が引き継ぐって、ピアノで満足させるという意味?
「俺があなた達を満足させれたら、それは手島さよりの加点にしてくれ」
聴衆が口々に言った。
「私達は、歌を聴きたいのだ。ピアノはどうでもいい」
「なぜか、わかる? 歌は人間の魂に近いけれど、楽器はガラクタだから」
「ピアノは、所詮……人間が作った道具だ」
「玩具の音に金はかけたくない」
もう誰が誰やらわからない。
わかるのは、男か女か、ぐらいで。
「早瀬須王の名前を地に落とさないために、もう戻った方がいい」
「そう。手島さよりとあなたは違う世界に住んでいるのだから」
……同じ音楽界にいる有名人ふたりに、線を引く聴衆。
嘲るように言う、その意図はわからない。
すると須王は、その場に崩れたまま立ち上がれない彼女をその場に残したままにすると、彼女のところに立っているスタンドマイクを持ってきてピアノの横に向け、自身はピアノの椅子に座った。
これは――、『ぐだぐだ言わずに俺の曲を聴け!!!』とでも言いたいわけ!?
ざわつくなか、須王はマイクに言った。
「本日最後の曲は、ビリージョエルの『Honesty』。どうぞお聞き下さい」
ああ、強硬的に演奏する気だ。

