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エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice

そんなことをしても、聴衆が認めないと手島さよりは救えない。
ピアノは玩具だと言い放つ、音楽界に在籍しているらしい……嫌な奴らを、音楽でどう納得させようと言うの?
須王の手が鍵盤の上で動く。
手島さよりが、救いを求めているかのように、手だけをピアノの椅子に伸ばす。
そして――ピアノの調べに乗せて、須王が歌い出したのだ。
それは初めて聞く、天才音楽家の生声だ。
流暢な英語で、甘く艶やかな声が響き渡ると、場はしーんとした。
それは超絶イケメンの声だからではない。
有名な音楽家が初めて歌ったからでもない。
情感たっぷりな須王の声に、誰もが惹きつけられたからだ。
それは須王の官能的な声にも似て僅かにハスキーで、サビの高い声も肩を竦めさせながら悠然と、ピアノと共に緩やかに奏でられる。
豊かな音域を持つ艶やかなバリトンから、須王とのあれこれを思い出すあたしは、泣きたくなった。
しんみりというよりも、心に迫るのだ。
彼の持つ、声の響きが。
ああ、あたし――。
須王と同じ時代に生きれてよかった。
心からそう思った。
彼が愛する音楽は、楽器や育成に限定されるものではない。
ましてや玩具だの魂だの、そうした区分けなどしていない。
彼が好きだと思う音を、彼が自由に表現出来るゆえに、彼の作る音は多彩で情がある。
須王の言葉より彼が奏でる音楽の方が、音楽に対する彼の想いを顕著に伝える。
彼がどんなに音楽を愛しているのか。
彼がどんなに音楽を汚い手から守ろうとしているのか。

