この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice

「……っ」
ピアノを馬鹿にした聴衆達、見たか。
彼が凄いのは、手段ではなく、考え方なんだ。
それもわかっていないのに、音楽を語るんじゃない。
自分達の音楽こそが最高なのだと、他を排斥するんじゃない。
音楽は、ひと如きは太刀打ちできない神聖なもの。
ひとが、音楽の幅を決めてはいけないのだから。
――演奏が終わった。
あたりはしーんと静まり返っている。
終わったのを気づいていないのか。
それとも、終わっても反応したくないのか。
だからあたしは、力一杯拍手をした。
湧き上がる感動が、あたしを奮い立たせた。
「凄くよかった。トリに相応しかったよ!!」
手が痛くなるほど拍手して、あたしは大きな声で叫ぶ。
「凄く感動した。ねぇ、皆さん、そうでしょう!?」
すると、後ろからパチパチと音がした。
振り向くと、須王に威嚇されて引き下がったあのウェイターだった。
それにつられるように、バーテンや他のウェイターが拍手をすると、そこから少しずつ拍手が増えて、凄まじい大喝采となった。
音楽を馬鹿にしていた聴衆は肩身が狭そうにしていたけれど、その様子を見ていると、彼らも感じ入るところはあったのだろう。
なにはともあれ、須王は成功したんだ。
結果よければ、すべてよし。
立ち上がったあたしは、ずっと手を叩き続けた。
痛かろうが、後で腫れようが、そんなものはいい。
録音はばっちりだ。
スタジオに戻ったら、皆に聞かせてやろう。
棗くんに言って、あたしのスマホの着信音にして貰おうかな。
初めての着声は、須王の歌声なんてとても素敵。
……バカップルと言われようが平気だ。
それくらい、あたしは須王の歌声に感動したのだから。
須王は珍しく少し照れて、頭を掻きながら頭を下げていた。

