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エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice

「あ、あたしはゾンビじゃないわ!」
思わずつんとしてみたが、須王は微笑んで言う。
……その間に、またがぶりと手島さよりがかぶりつくが、まるで動じない。
「お前がゾンビになったら、俺の体をやる」
「は、はあ!?」
「当然だろうよ。心底惚れた女の体となって、一生過ごせるというのなら、これほど嬉しいことはねぇだろう」
うっとりとしたような顔に、僅かに顔を引き攣らせたあたしが聞く。
「す、須王って、そっち系の趣味はあるの?」
ええと、人肉を食べる趣味は……カリバニズムっていったっけ。
あれ、食われる趣味がある方も、カリバニズムって言うんだっけ。
思わず訊いてしまったけれど、もしそうだと言われたらどうしよう。
美味しかったはずのローストビーフが、恐怖の食事に思えて気持ち悪くなってくる。
「あるわけねぇだろ。ただ俺は、お前がゾンビになったからと逃げたり、お前をひっぱたいたりして敵視したりはしねぇってこと」
須王は蕩けたような眼差しを細めながら、あたしの頬を指でつつくと、そのままの表情で、手島さよりの両頬を鷲掴み、口枷にする。
あたしがパンパンと叩くよりも、余程効率的で確実な制し方だ。
……だったら、最初から自分の身を守りなさいよ。
「ああ、くそ。完全にデートコースを間違えた気がする。今頃、喜んだお前といい感じになっているはずだったのに」
落胆したような嘆息に、あたしは思わずくすりと笑ってしまう。
喜ばせようとしてくれただけでも、嬉しいのに。

