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エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice

愛する者を守るため、ゾンビと格闘に末に――など言うのは、とてもおこがましく、ゾンビを片手でねじ伏せた須王になぜか顔を赤くさせられながら、ただの同行者として控え室にたどり着いた。
演奏の休憩中、手島さよりは控え室に戻っただろうに、片付ける余裕もなかったのか、バッグの中身も薬も散乱したまま。
赤い丸錠薬……ポムを、手島サヨリの口の中に入れるまでがまたひと苦労で、簡単に言えば――捕獲したゾンビはひたすらに手強くて、あたしはひたすらに怖かったということだ。
何錠が適量なのかわからないが、錠剤を掬って持ってきたあたしの手に噛みつくようにして(未遂!)、彼女が飲んだ錠剤は六錠ほどだと思うけれど、それは前に見た時よりも少なかったせいなのか、人間化には時間がかかっていた。
だが、黒目をぐるりと上に回して、半ば白目で筋肉を強張らせた固まった状態から、少しずつ関節の柔らかさを見せ始め、筋肉が弛緩するのを見た時、我が子が二本足で立ち上がった時の心境ってこうなんだろうなって、妙な感動を覚えてしまった。
……そんな手島さよりは今、ソファの上ですぅすぅと人間らしい寝息をたてて眠っている。
須王とあたしは、足の踏み場もない散乱したままの控え室を片付けながら(須王を手伝わせた)、眠り姫のお目覚めを待つことにした。
「ねぇ、須王。彼女がゾンビになったきっかけってなんだろうね。映画でよくある噛みつきからの感染なら、須王はとっくにゾンビになっているはずだし」
「いい加減、ゾンビの発想を捨てろ。手島さよりは、ゾンビなんかじゃねぇよ」
「え……」
あたしは、手島さよりの手帳を拾って読んでいる須王に、顔を向けた。

