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エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice
 
「ドラッグって……いい気分になってアヘアヘしているイメージがあるんだけれど」

「……ドラッグは個人の楽しみもあるだろうが、拷問になるからな。どんな強靱な男であろうと、ドラッグの合成方法とさじ加減で、廃人行きだ」

 須王はまるで、昔語りのように言う。

 遠くを睨み付けるようなダークブルーの瞳。

 もしかして彼は……組織でそんな場面を目の当りにしたのだろうか。
 まさか彼も、そんな目に遭ったことがあるのだろうか。

 それは、怖くて聞けなかった。
 過去を思い出した彼の、傷ついた顔を見たくなかった。

 あたしに出来るのは、ただ話題を変えることくらいだ。

「……手島さよりも海外に行っていたから、もしかして海外でおかしな薬に手を染めたってこと? でもあれ? 審査員達、ポムがどうのって言ってたわよね。確か……」

――歌を歌えないのなら、ポムは渡せないな。

 仮面を着けた男は、そう言っていた。

「だったら、ポムは……ゾンビとなる中毒症状を緩和抑制する薬で、それを審査員達が、彼女に渡している……?」

 そう考えると――。

「え、審査員がドラッグ中毒を黙認して、自分達が希望する歌をうまく歌わせたら抑制剤出しているってこと?」

 須王は、彼女の手帳を閉じてバッグの中に戻す。

「……そうだったら、まだいいがな。逆かも知れねぇ」

「逆……?」

「頻繁に大量の薬を飲まねぇといけねぇほどの重度のドラッグ中毒なら、もう廃人状態だ。それにすぱりとドラッグの影響を断ち切れる特効薬などねぇから、ドラッグはやめられねぇと考えれば……」

 須王は美しい顔を険しくさせる。

「錠剤からは、微かにだが柘榴の香りがした。だからこそ、ポムなんだろう。Pomegranate……AOPのP、ここ最近の柘榴づくしから思えば、偶然とは思えねぇな」

 偶然ではない――。

 その意味するところを尋ねようとした時だった。

「ん……」

 手島さよりが目覚めたのは。
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