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エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice

最初は事態が掴めていなかったのか、きょろきょろとあたりを見渡していたが、ペットボトルの水を手渡した須王を見て、ようやく記憶が戻ってきたようだ。
上体を起こしてごくごくと水を飲むと、ソファに背中を凭れさせ、天井を見上げながら彼女は言う。
「……結果は、どうなったの?」
「途中で抜けたからわからねぇが、よくて無効だろう。そう叫んでいる審査員がいたから」
「そう……」
ため息をついて目を瞑る彼女は今、なにを考えているのだろう。
それはあまり喜びに満ちたものでもなく、かといって前のように恐怖に怯えている様子もなく。
ただどこまでも、静かな諦観のようだった。
「約束だったわね」
「ああ。まず赤い錠剤の正体について」
須王の声に、手島さよりは力なく頷いて言う。
「――ドラッグよ、通称ポムと呼ばれる柘榴の」
やはり須王のドラッグ説は正しかったのかと思い、そしてはっとして、彼女に訊いた。
「ドラッグ? 抑制剤ではなく?」
――……そうだったら、まだいいがな。逆かも知れねぇ。
――それにすぱりとドラッグの影響を断ち切れる特効薬などねぇから、ドラッグはやめられねぇと考えれば……。
「……ドラッグよ。よく歌声が出せる代償に、人間としての尊厳を捨てて」
「歌声って……」
手島さよりは悲しげに笑う。
「海外にいた頃、凄まじいプレッシャーの中で歌を歌っていた。そのストレスで思うように歌えなくなってしまったの。声帯ポリープとか病的なものが原因であるのなら、治療をすれば改善出来るかもしれないけれど、私の場合は違った。医者から精神的なものだと言われる度に、頑張ろうとする気持ちが強くなってしまい、挙げ句に動悸が激しくなり、歌だけではなく日常会話すら弊害が起きてしまった」
重度のスランプに陥っていたというのか、彼女は。

