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エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice

「だが、俺からしてみれば、どんな理由があれドラッグを飲まないと奏でられない音楽など、音楽じゃねぇよ。音楽への冒涜も甚だしい」
音楽を愛する須王の言葉は正論ではあるが、聞いているあたしですら胸を打つような悲痛さが滲み出ていた。
「あんたの手帳を見せて貰った」
びくんと手島さよりは肩を震わせた。
「予定表に頻繁に出てくる、Sとは誰だ?」
「……」
「音楽に悪いと思うなら、言え」
「……っ」
彼女はもごもごと言う。
「サリエリのS」
「サリエリ?」
「それしかわからない。いつも暗いところで音楽を語って仮面を被っている奴らは、音楽家の名前を名乗っているから! 音楽をしている奴らだとはわかるけれど、素顔を見たことがないの、私は!」
それは悲憤にもにたヒステリックな声だった。
「音楽をしたい、それだけなのに、いつしか私は……あいつらの手でしか歌えないカナリアになっていた。海外に住まう仲間に、私は捧げられた。あいつらは私をいたぶり、私を壊して自由に歌えなくして、その上……ああああああああ!!!」
それはゾンビ化の兆候かと思ったが、彼女の悲しみの慟哭だった。
あたしは思わず、彼女を抱きしめる。
「大丈夫。落ち着いて下さい、あたし達は危害を加えませんから」
細い体だった。
ダイエットとか美容のために痩せたわけではないだろうことは、よくわかった。
「サリエリ、か」
須王が呟いた。
音楽家のサリエリとは、アントニオ・サリエリのことだろうか。
かの天才音楽家のモーツァルトのライバルにして、モーツァルトの死に関わったと噂される、謎多き人物。

