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エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice
 
「ということは、モーツァルトはいるのか?」

 彼女は頷いた。

「アマデウスと言っている、リーダー格の男よ。皆は彼に服従する。だけどアマデウスの上に御前と呼ばれる、男がいる。見たことはないけど」

 ゴゼンなんて、いつの時代の組織なんだろう……。

「他に誰がいるんだ?」

「私が知っている限りで、ブラームス、ドビュッシー、エルガー、ショパン、グリーグ、フォーレ。それにモーツァルトであるアマデウスとサリエリを入れて、八名」

 どれもが著名なクラシックの音楽家の名前だけれど、なぜこの八名の名をつけたんだろう。

 しかもモーツァルトだけがミドルネームだし。
 
 そんな中、須王が独りごちた。

「モーツァルトではなくアマデウスにしなければならない理由。アマデウス、A……? ああ、音階の名前か。サリエリだけは違うが」

「音階の名前ってなに?」

 やはりあたしは、棗くんの代理にはなれないらしい。

「C(ド)はショパン、D(レ)はドビュッシー、E(ミ)はエルガー、F(ファ)はフォーレ、G(ソ)はグリーグ、A(ラ)はアマデウス、B(シ)はブラームス。サリエリだけが音階にはない」

「ちょっと待って。ショパンは、Sじゃ……」

「それはローマ字読みだろう? ショパンは、Chopin、Cだ」

 ……そうでした。

「だとすればサリエリが余計異質だが……立ち位置も他と違うのか?」

 すると手島さよりは、頷いた。

「彼だけは私達に酷いことをしないで、傍観しているの。彼が私に〝歌える魔法〟だとポムをくれて……負けるなと言ってくれたから、頑張っている」

 助けないで見ているだけ、しかもドラッグを渡しているサリエリを、心の励みにしている彼女に、憐憫の情が湧いてしまう。

 ただのアメとムチじゃないか。

 所詮は、同じ穴のムジナだということに彼女が気づけないのは、それだけ彼女が極悪な環境にいるからなのか。
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