この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice

「警察に相談したりとか、しなかったんですか?」
思わず尋ねると、彼女は皮肉げに笑いを浮かべた。
「そんなこととうに試しているわ。どこにいようと、追い詰められる。逆に酷い仕打ちが待っているから、そのうち助けを求めることも諦めてしまった」
……警察をも抑えることが出来る者達、ということか。
碧姉はどうなのだろう。
彼女も救いを求め、そして救われることに諦めているのだろうか。
「だけど……ポムの代償は私の体の変調だけではなかった。月に一回の審査で、審査員を満足させることが出来なければ、私は世から抹殺されて、一生あの暗がりでたくさんの男達に――っ!! 嫌、それだけは嫌!!」
今の彼女の自由は、サリエリがくれるポムが繋いでいるようだ。
酷いことをしないけれど、傍観している……それでも彼女にとっては優しい魔法使いだったのだろう。
「歌を歌い続けないと私には価値がない。私の歌は、彼らに捧げないといけない!! 歌えなくなったら、私も家畜にされる――っ!!」
手島さよりは泣きじゃくる。
家畜って……。
一体、なにをしているのよ。
あたしは、あたしの記憶の中に刻まれた仮面をつけた審査員に文句を言う。
音楽を穢さないでよ。
音楽は幸せにするものであって、個人の私欲にまみれてはいけない。
それで音楽の仕事をしていますなんて、言わないでよ。
なんなのよ。
どこまで音楽を馬鹿にして、ひとを苦しませるのよ。
怒りが沸々と湧いてくる。
「あんたの体はきっと、ドラッグでボロボロだ。ドラッグを飲もうが飲むまいが、危険な状態だろう。そして奴らにとって、あんたがどうなろうとも知ったこっちゃない、言わば替えの利く存在だ」
須王が辛辣に言った。
「わかってる。わかってるけど……」
「等価交換といこう。もしもあんたが知り得る、八人の情報を俺に言えたら、ドラッグ中毒のあんたを更生出来、無理矢理歌う必要もねぇ特別機関に入れてやる。俺には、そういうのに詳しいコネがある」
……棗くんか。
「私、知らないと言ったわよね。音楽家の名前で呼び合っている、音楽業界の人間としか。とにかく暗くて仮面をつけているからわからないのよ!」
そうヒステリックに叫ぶ手島さよりは、斜め下を見ていた。
つまり、嘘だ。

