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エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice

「警察に相談したりとか、しなかったんですか?」

 思わず尋ねると、彼女は皮肉げに笑いを浮かべた。

「そんなこととうに試しているわ。どこにいようと、追い詰められる。逆に酷い仕打ちが待っているから、そのうち助けを求めることも諦めてしまった」

 ……警察をも抑えることが出来る者達、ということか。

 碧姉はどうなのだろう。

 彼女も救いを求め、そして救われることに諦めているのだろうか。

「だけど……ポムの代償は私の体の変調だけではなかった。月に一回の審査で、審査員を満足させることが出来なければ、私は世から抹殺されて、一生あの暗がりでたくさんの男達に――っ!! 嫌、それだけは嫌!!」

 今の彼女の自由は、サリエリがくれるポムが繋いでいるようだ。
 酷いことをしないけれど、傍観している……それでも彼女にとっては優しい魔法使いだったのだろう。

「歌を歌い続けないと私には価値がない。私の歌は、彼らに捧げないといけない!! 歌えなくなったら、私も家畜にされる――っ!!」

 手島さよりは泣きじゃくる。

 家畜って……。
 一体、なにをしているのよ。

 あたしは、あたしの記憶の中に刻まれた仮面をつけた審査員に文句を言う。

 音楽を穢さないでよ。
 音楽は幸せにするものであって、個人の私欲にまみれてはいけない。

 それで音楽の仕事をしていますなんて、言わないでよ。

 なんなのよ。
 どこまで音楽を馬鹿にして、ひとを苦しませるのよ。

 怒りが沸々と湧いてくる。

「あんたの体はきっと、ドラッグでボロボロだ。ドラッグを飲もうが飲むまいが、危険な状態だろう。そして奴らにとって、あんたがどうなろうとも知ったこっちゃない、言わば替えの利く存在だ」

 須王が辛辣に言った。

「わかってる。わかってるけど……」

「等価交換といこう。もしもあんたが知り得る、八人の情報を俺に言えたら、ドラッグ中毒のあんたを更生出来、無理矢理歌う必要もねぇ特別機関に入れてやる。俺には、そういうのに詳しいコネがある」

 ……棗くんか。

「私、知らないと言ったわよね。音楽家の名前で呼び合っている、音楽業界の人間としか。とにかく暗くて仮面をつけているからわからないのよ!」

 そうヒステリックに叫ぶ手島さよりは、斜め下を見ていた。

 つまり、嘘だ。
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