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エリュシオンでささやいて
第3章 Dear Voice
「……あんたさ、おじさんの言うこといちいち律儀に実行しなくてもいいから! お面がないなら、ないでいいじゃないか。なんでおかしなもの拾ってくるんだよ、誰に着せるつもりなんだよ」
「別に拾ったわけじゃなく、頼み込んで……」
「頼み込むなよ!」
「……。……ぐすっ、せっかく探し回ってきたのに……」
「あ、ああ! 柚、泣くなって。おじさん帰って来たら、俺本番前に殺されるじゃないかよ。な、柚、俺言い過ぎた。ごめん!」
裕貴くんはあたしの前で両手を合わせて頭を下げた。
「じゃあ、あれでもいい?」
「うん、いいぞ。……って、は?」
台車から飛び出るほどの大きなりすとうさぎの頭。
その下には着ぐるみパジャマみたいだった身体を折りたたんでいる。
裕貴くんは、いいといってくれた。
よかった、よかった。
「裕貴くんはどれがいい? うさぎさんがいい? キュートでラブリーでしょう? 胴体部分は、赤いエプロンつけてるの! めちゃ可愛いよね」
白うさぎは女の子で、長い耳に赤いリボンをつけて、まつげバサバサ。
素材はふわふわだから触ってても気持ちがいい。
「それともりすくんかな? 出っ歯が可愛くて愛くるしい顔だよね」
りすは茶色。愛嬌ある顔立ちで、見ているだけで思わず微笑んでしまう。
やはりふわふわ素材で、胴体には着脱式のふんわりと丸まった見事な尻尾もついている。
「え……まさか、俺にこれ着て演奏しろと?」
「そう! 手は着脱式になっているから、演奏の邪魔になりそうなら外すといいよ。森の音楽家みたいだよね。もう着てみる? 写メとらせて」
ハートを沢山飛ばしているあたしに、裕貴くんは恐ろしいものでも見たかのように後退る。
「ねぇ、どっちがいい? りすくん? うさぎちゃん?」
「俺……」
「ん? 裕貴くん肌の色白いから、うさちゃんも可愛いよね」
「俺……それよりあのさ!」
潤んだ目で話題を変えられた。
「柚とおじさんの関係って?」
あたしの眉に皺が寄る。
「聞いてなかったじゃん、俺」
「……同じ会社の同僚兼上司。偉そうなあっちが上ね」
「それだけ?」
「………」
「ただの同僚じゃないでしょ?」
「……同じ高校で隣のクラスだった」
あたしは裕貴くんから顔を背けて、うさぎの頭を撫でていた。