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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
「包帯をとったその顔が、元の彼の顔だとは限らない。移植された素材がどんなによくても、医療技術には限界はある。……もしも彼が醜く変貌して全快したら、生まれ変わったその姿に彼は耐えきれるかしら。そう思えば……」
「……それでも、死んでいい理由にはならないよ、棗くん」
あたしは棗くんに言う。
「死んでいい人間なんて、絶対いない」
それだけは断言出来る。
皆、必死に生きている。
亜貴だって生きようと海外で頑張っている。
朝霞さんだってそうだ。
手術室に消えた遥くんだってそうだ。
誰ひとりとして、死にたいなんて思う人間はいない。
「朝霞さんは生きるために戦っているの。だからあたしは……どんな姿でも、朝霞さんに生きて貰いたい」
どんな姿でも、元エリュシオンのメンバーとしてあたしが信頼していた、彼の根本は変わっていないと、あの時思えたから。
「……妬けるな」
須王が小さく呟く。
「え!? どのへんが?」
しかし須王はそれには答えず、口元を吊り上げるようにして言った。
「それでこそ、柚だけれどな」
今、須王の頭の中には何が巡っているのか、あたしには想像がつかない。